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家族信託と事業承継

事業承継についての問題は、多くの経営者の方が抱えている課題です。

その問題を解決する方法として、相続時精算課税制度や、新事業承継税制などの税務上の特例を利用した自社株式の贈与を活用する方法や、種類株式を活用する方法などがありますが、最近では、「家族信託を使って、事業承継の課題を解決する」という方が増えています。

 

事業承継には、いくつか解決しなければならない課題がある

一口に事業承継といっても、解決すべき課題はいくつかあります。

最も重要な課題は、現経営者の持つ自社株の承継先をどうするのかという点です。

経営者にとって、自らの後継者を決定し、円滑に経営権を引き継ぐというのは、非常に重要な仕事であり、何も決めないまま経営者が亡くなってしまうと、事業継続に支障が生じることさえあり得ます。

自社株の承継先を決めずに現経営者に相続が生じた場合、自社株式は相続人に相続され、相続人の全員の合意によって、遺産分割の手続きを行う必要があります。相続人の方々の合意がまとまらなければ、自社株は相続人全員が共有した状態のままになるため、役員の人事や会社の重要な事項の決定にも、相続人全員の合意が必要になってしまいます。

また、相続人全員の意思が合致している状態であったとしても、そのうち一人でも認知症を発症した方がいると、法的な行為ができなくなるため、遺産分割や会社の重要事項の決定に支障が生じる場合があります。

 

承継先を決めれば、解決ではない。経営者の認知症というリスク

もう一つの事業承継の課題は、経営者の認知症の問題です。

現在の日本では、経営者の平均年齢は、60歳程度といわれており、高齢化が進んでいます。

その経営者が、認知症などの疾病により、株式を保有したまま認知症などを発症し、意思表示ができなくなってしまったら、役員の人事や会社の重要な事項の決定は、行えなくなります。

事業の継続が困難になりかねない事態に備えて、経営者が意思表示をできなくなるリスクにも対策を講じていく必要があります。

 

事業承継の課題を解決する家族信託

上記のような課題を解決する仕組みとして、家族信託が活用されることが増えています。

事業承継における家族信託では、現経営者が持つ自社株を、後継者に対して信託します。

自社株を信託することにより、以後の議決権行使は現経営者にかわり後継者が行うことになります。よって、仮に現経営者が認知症になってしまった場合でも、後継者により安定的に議決権を行使することができるようになり、会社のBCP(事業継続計画)としての機能も担うことができます。

自社株の承継先については、信託契約の中で現経営者がお亡くなりになった場合の自社株の承継先を予め定めることにより、現経営者に相続が発生した場合でも直ぐに自社株の承継ができ、スムーズに次世代への事業承継が可能となります。

自社株から生じる配当金は、オーナーである現経営者が受け取ります。

つまり、信託することで、自社株の議決権は後継者へ、配当金等を受け取る権利はオーナーである現経営者へと、本来セットであった2つの権利を分離することができるのです。

 

すぐに後継者へ託す必要はない

信託はしたいが後継者に議決権を行使させるのは不安、信託後も現経営者が議決権を行使できないかといったご要望もあるかと思います。現経営者に議決権行使等に対する指図権を設定しておくことができます。こうすることで、現経営者が健常でいる間は、議決権行使や株式の売却は、現経営者がコントロールすることができます。

 

家族信託は、自由な契約行為である

家族信託は契約行為であるため、当事者の意思次第、工夫次第で、それぞれの課題にあった形を柔軟に作ることができます。当社は、家族信託を使った事業承継案件の経験が非常に豊富であり、家族信託と他制度のメリット、デメリットを比較し、最もクライアントに合う事業承継のコンサルティングを行わせていただきます。

 

家族信託はこう使う、実際の具体例をご紹介

当社の家族信託を使った事業承継対策事例を一つご紹介させていただきます。

 

相談者:A氏(現社長・株式60%を保有)

家族構成:B氏(妻・株式40%を保有)、C氏(長男・後継者)、次男、三男

事業承継を検討する会社:X社(A氏が経営する会社)

 

ご紹介します事例は、家族経営をしているX社での家族信託を活用した事業承継事例です。

先代社長より株式を譲り受けた現経営者A氏がX社株式の60%を保有し、妻であるB氏が40%を持っており、A氏、B氏は保有する株式を後継者であるC氏に相続させるつもりであるが、遺言等は作成していない状態でした。なお、C氏には他に兄弟が2名おり、兄弟はX社の経営には関与していません。

当初のご相談は、現社長のA氏からであり、自らが相続争いを経験したことから株式の相続を含め事前の対策を立てておきたいというものでした。

A氏からのヒアリングの結果、本件において対策すべき主なリスクは、株式保有するA氏及びB氏の認知症リスクと、相続発生により株式が共有になってしまうリスクの2点と判断し対策を講じることとなりました。ただし、C氏はまだ若く、これから経営引き継いでいこうという時期でもあったため、信託に伴いA氏が持つX社株式を現段階で後継者であるC氏に完全に託すことには抵抗があり、その点を解決することが1つ大きな論点でした。

そこで、本件では、受託者として一般社団法人を設立し、法人の役員にA氏、B氏、C氏が入り、代表理事にA氏がなることとにより、信託後でも一般社団法人を介してA氏が間接的に議決権を行使することができるように信託を組成することにしました。また、株式の承継先については、信託契約の中で「A氏・B氏が死亡したら、C氏に承継させる」と定め、C氏へスムーズに承継されるようにしました。

結果として、家族信託を活用することで、株式の承継先を定めて将来的な相続争いを未然に防ぎ、株式を保有するA氏及びB氏の認知症対策も講じることができました。

なお、本件では、信託すると以後議決権を行使することができなくなるというA氏の不安に対し、受託者として一般社団法人を設立してその代表理事をA氏とすることで、A氏が信託の後も間接的に議決権を行使することができるスキームとしたことが1つのポイントです。

 

対策までの期間

事業承継にかかる家族信託の場合、金銭や金融資産を信託する場合の家族信託と比べ、信託契約締結までに時間がかかる傾向にあります。一方で、委託者となる現経営者の方の判断による部分が大きくなるため、現経営者の方の中で、受託者及び事業承継先を誰にするか、議決権行使を任せてよいかなどの方向性がある程度固まっている場合には、比較的スムーズに信託契約締結まで進めることができます。実際には、お話がスムーズに進んだ場合で、初回面談時から信託契約締結まで2カ月~3カ月位の期間を要することが多いです。